3代目のフォード・エクスプローラー(2002〜2005年式)は、「ATが弱い」という評判がつきまといます。よく語られるのは、走行中にメーター内の「O/D」ランプが点滅し、3速や5速に入らなくなる、いわゆる「オーバードライブが滑る」症状です。原因としては、バンドを締め付けるサーボの穴(ボア)の摩耗や、変速を制御するソレノイドボディの不良が挙げられます。
ところが、NHTSAに寄せられた苦情を年式ごとに数えてみると、2004年式だけ、苦情の中身がはっきり違っていました。2004年式で目立つのは「O/D滑り」ではなく、「シフトをRに入れても数秒つながらず、そのあとガツンと入る」という訴えです。同じ「5R55」という名前のATでも、年式によって疑う場所が変わる。今回はそこを数字から見ていきます。
7年式分の苦情を数えたら、2004年式は「リバース」が主役だった
2001〜2007年式のエクスプローラーについて、NHTSAの苦情を取得し、AT関連と思われるものを数えました。さらにその中を「O/D・高いギアの不調を訴えるもの」と「リバースに入るときの遅れ・衝撃を訴えるもの」に分けています。
| 年式 | 苦情総数 | AT関連の苦情 | 割合 | うちO/D・3〜5速の不調 | うちリバースの遅れ・衝撃 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2001年式(2代目) | 398件 | 29件 | 約7% | 10件 | 0件 |
| 2002年式 | 3,300件 | 1,206件 | 約37% | 441件 | 50件 |
| 2003年式 | 1,130件 | 239件 | 約21% | 107件 | 12件 |
| 2004年式 | 1,304件 | 392件 | 約30% | 41件 | 164件 |
| 2005年式 | 497件 | 75件 | 約15% | 8件 | 19件 |
| 2006年式(4代目) | 630件 | 230件 | 約37% | 19件 | 49件 |
| 2007年式(4代目) | 208件 | 44件 | 約21% | 5件 | 5件 |
2002年式は苦情の数そのものが桁違いです。販売台数で割った数字ではないため、件数の多さだけで「最悪の年」とは言えませんが、AT関連の中でO/D・3〜5速の訴えが441件と、リバースの50件を大きく上回っています。2003年式も同じ傾向です。
ところが2004年式では、O/D系が41件に減り、代わりにリバース系が164件と逆転しています。AT関連の割合は約30%と依然高く、「ATの苦情が減った年」ではありません。壊れ方の傾向が入れ替わった年と読むのが自然です。
なぜ2004年式だけ違うのか——ATの「中身」と工場で入れたフルード
理由として考えられることが2つあります。
ひとつは、ATそのものの世代交代です。AT部品メーカーSonnax社の技術資料によると、エクスプローラー/マウンテニア用の5速ATは、2002〜03年式が「5R55W」、2004〜05年式はそれに代わる「5R55S」です。名前はよく似ていますが、オーバードライブ用サンギアの歯数などが異なる別仕様で、2004年式は新しい「S」の初年にあたります。
もうひとつは、工場で充填されたATフルードです。2004年式の苦情には、「フォードから手紙が来て、ディーラーでATに添加剤を入れた」という記述が28件ありました。これはフォードの顧客満足プログラム(リコールではなくメーカーの自主的な無償対応)04B22とみられます。Sonnax社の資料は、初期のMercon V(フォードのATフルード規格)による工場充填がソレノイドの劣化につながったこと、04B22として暫定の添加剤が配られ、最終的には改良版のMercon Vで対処されたことを説明しています。当時のオーナー掲示板には、案内の手紙に「時間がたつとリバースへの切り替えが遅れたり、強い衝撃が出たりするおそれがある」と書かれていたという投稿も残っています。
苦情の内容とプログラムの説明が、「リバースの遅れと衝撃」という一点で重なっているわけです。なお、NHTSAのリコール検索では2001〜2007年式のエクスプローラーにATを対象としたリコールは1件も見当たりませんでした。04B22はあくまでメーカーの自主対応で、国のリコールではありません。
「添加剤を入れたのに直らない」——苦情に残る、その後の経過
添加剤で一件落着、とはいかなかった記録が目立ちます。2004年式の苦情には次のような経過が繰り返し出てきます。
- 添加剤を入れて1か月ほどは良かったが、また同じ症状に戻った
- 添加剤のあとにソレノイド(ソレノイドボディ)を交換、さらにもう一度交換した
- 「この程度の遅れは正常」とディーラーで言われ、何度も持ち込んだ
- 最終的にATの載せ替え・オーバーホールに至った
AT関連の苦情392件のうち65件が「solenoid」に触れており、2002年式(1,206件中57件)と比べると、2004年式の苦情ではソレノイドボディの話題の比重が明らかに高くなっています。Sonnax社の資料も、劣化したフルードが残っていると交換した新しいソレノイドの寿命まで縮めると注意しています。添加剤だけ、あるいはソレノイドだけを替えても再発するケースがあるのは、このあたりが関係していそうです。
2002〜03年式の「O/D点滅」は、サーボの穴の摩耗が定番
比較のために、通説どおりの症状も整理しておきます。2002〜03年式の苦情では、O/Dランプの点滅とエンジン警告灯の点灯、3速に入らない、2→3速で回転が吹け上がる、といった訴えが中心です。原因として整備工場から説明されたものには、サーボの穴(ボア)の摩耗、バンドの焼損、ソレノイドボディの不良が並びます。
サーボは、オーバードライブ用と中間(2速など)用のバンドを油圧で締め付ける部品です。アルミのケースに開いたピンの通り穴が摩耗するとそこから油圧が逃げ、バンドが十分締まらず滑ります。Sonnax社はこの穴を削り直してスリーブ(筒)を入れる修理キットを5R55N/S/W向けに用意しており、効く症状として「1→2、2→3、4→5速の吹け上がり」「ギア抜け」「バンドの焼損」などを挙げています。つまり2004年式の5R55Sでも、この摩耗が起こりうる構造は同じです。2004年式でリバースの症状が目立つからといって、O/D系の故障と無縁という意味ではありません。
ちなみに、同じエクスプローラーでも2011年以降の6速AT(6F35)のシャダーは、仕組みも対策もまったく別の話です。そちらは「2016年式エクスプローラーの6F35ATシャダー」で解説しています。
AT・変速不良の診断の実績がある工場を選ぶことが、再発と二重の出費を避ける近道です。問い合わせ時に年式・型式・走行距離と、出ている症状(診断済みのトラブルコードがあればその番号)を伝えると、見積もりの精度が上がります。
費用は「どこで止められるか」で一桁変わる
修理費は、どの段階で手を打てるかで大きく変わります。出典で確認できた金額は、次のとおり個々の苦情や消費者サイトの記述です。相場として一般化はできない点にご注意ください。
| 段階 | 苦情・資料に記載された金額の例 |
|---|---|
| ソレノイドボディの交換 | ディーラー見積もり約900ドル(2004年式の苦情)、75,000マイルで1,100ドル(同) |
| ソレノイド+内部部品の一部交換 | 1,300ドル(2004年式の苦情) |
| リビルトATへの載せ替え | 「3,000ドル近く」(CarComplaints.com) |
| AT故障時の修理 | 84,000マイルで4,500ドル(2004年式の苦情) |
ソレノイドボディの段階なら1,000ドル前後の例がある一方、載せ替えになると3,000〜4,500ドルの例が並びます。日本で乗っている場合は、ここに部品の取り寄せ費用や工賃の差が加わります。
すでに20年以上たった車両です。AT修理の見積もりが車両の価値に近づくようなら、直す前に今の売却価格を確かめておくのも一つの判断材料になります。
修理か、売却か。判断材料になるのは「修理見積もり」と「今の売却額」を並べた比較です。アメ車は業者によって査定額の開きが大きいため、1社の提示額だけで決めず、複数社の査定を取ったうえで見積もりと突き合わせてください。
2004年式オーナーが、いま確認しておきたいこと
- リバースの入り方:PやDからRに入れたとき、つながるまでに「間」があり、そのあと衝撃が出ないか。2004年式のリバース系164件のうち36件は「ときどき」「毎回ではない」といった書き方で、試乗一回では出ないこともあります
- O/Dランプの点滅:点滅はATの異常を知らせるサインとして苦情で繰り返し出てきます。点いたら記録を残し、早めにコードを読んでもらう
- フルードの履歴:交換歴と、使われたフルードの種類。04B22の対象だった時期の車両なら、対応済みかどうかはフォード販売店でVIN(車台番号)から照会できます
- 再発歴:ソレノイドを替えたことがあるのに症状が戻っているなら、ソレノイド以外(フルード、バルブボディ、サーボの穴など)も疑う段階です
Technical Notes for Professionals
ここから先は整備士・プロ向けの技術情報です DIYは自己責任
年式とユニットの対応(Sonnax資料による)
- 5R55W:2002〜03年式 Explorer / Mountaineer(OD サンギア24歯)
- 5R55S:2004〜05年式(Wの後継、ODサンギア38歯、ソレノイドにRPスイッチ端子なし)
- 5R55N:Lincoln LS・Thunderbird・Jaguar S等。W/Sと似ているが互換部品は一部のみ
ソレノイドアッセンブリーは外見が似ていても、ベースプレートとフィルター(ガスケット一体)の組み合わせが重要で、取り違えるとリバース喪失・TCC不作動・ソレノイド油圧の低下につながると同資料は警告しています。
リバースの遅れ・衝撃(2004年式に多いパターン)
- FSA 04B22:工場充填の初期Mercon Vが原因のソレノイド劣化に対する暫定添加剤(Sonnax資料では部品番号 4L2Z-19B546-AB)。最終対策は改良版Mercon V
- 交換用ソレノイドボディは、旧フルードが残ると早期劣化しうる。フルードの入れ替えとセットで考える
- 交換時はVFSソレノイドの回路にフルードを満たし、プライム切れを防ぐことが推奨されている。2002年以降のユニットはアダプティブ制御のため、作業後に学習値のリセット・再学習を行う。バッテリー・PCMアース、MAFセンサーの状態も確認
O/D・ギア抜け(サーボピン穴とVFSモジュレーター穴)
- サーボピン穴の摩耗:OD・中間サーボ。Sonnax 56361J-01K(スリーブキット)+専用工具 S-56361J-TL、リーマー治具SERVO-FIXで修正。対象症状は1-2/2-3/4-5のフレア、ギア抜け、コード732/733/735、バンド焼損
- 同じSonnax資料は、サーボピン穴が疑われがちでも、実際にはバルブボディのVFSモジュレーター弁の穴の摩耗で油圧が出ていないケースがあると指摘している。ケース側だけ直して再発、とならないよう両方を確認する
- 2002年式の苦情にはP0775、P0796を記録した例もある
※本記事の対象車両(2004年式)については、当サイトでの部品調達代行はご案内しておりません。お近くの整備工場・部品商にご相談ください。
「3代目エクスプローラーのATはODが滑る」という評判は、2002〜03年式の苦情の傾向とはよく合っています。ただ2004年式に限ると、苦情の中心は「リバースへの遅れと衝撃」で、その背景には新しい5R55Sと、工場で入れたフルードをめぐるメーカーの自主対応がありました。どちらの症状でも、早い段階ほど安く済む可能性が高いのは同じです。Rに入れたときの「間」に気づいたら、AT専門の工場で、フルードの履歴とあわせて見てもらうことをおすすめします。
出典
- NHTSA Vehicle Complaints Database — 2004 Ford Explorer(米国運輸省道路交通安全局 苦情データAPI)
- NHTSA Vehicle Complaints Database — 2002 Ford Explorer(同上)
- Figuring Out the 5R55 Alphabet | Sonnax
- Sonnax Tool Kit - S-56361J-TL
- 2004 Ford Explorer Transmission Problems | CarComplaints.com
- Customer Satisfaction Program 04B22 - MotorsForum