5代目のフォード・エクスプローラー(2011〜2019年式)には、「加速したときに車内で排気ガスのような臭いがする」という苦情が多く寄せられ、米国では一時、大きなニュースになりました。苦情の中には一酸化炭素(CO)を心配する声が多く、NHTSAは2016年から2023年まで、6年半かけて調査を続けています。
この記事では、調査がどう始まり、フォードがどんな対策を取り、最後にNHTSAがどう結論づけたのかを、公開されている一次資料の順に追っていきます。そのうえで、2017年式の前後3年分の苦情を集計し、数字から見えることを確認します。
先に結論を書くと、NHTSAは「安全上の不合理なリスクとなる欠陥は特定できなかった」としてリコールなしで調査を終えています。ただし、車内に排気が入り込むこと自体はあった、という前提の上での結論です。
苦情の山は「2017年式」ではなく「2017年」に立っていた
NHTSAの苦情APIから2014〜2020年式のエクスプローラーの苦情をすべて取得し、本文に臭い・一酸化炭素に関する語と「exhaust(排気)」または「carbon monoxide」が両方含まれるものを数えました。
| 年式 | 苦情総数 | 排気臭・CO関連の苦情 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 2014年式 | 1,682件 | 290件 | 約17.2% |
| 2015年式 | 1,809件 | 339件 | 約18.7% |
| 2016年式 | 2,461件 | 261件 | 約10.6% |
| 2017年式 | 1,712件 | 167件 | 約9.8% |
| 2018年式 | 733件 | 51件 | 約7.0% |
| 2019年式 | 299件 | 9件 | 約3.0% |
| 2020年式 | 1,238件 | 20件 | 約1.6% |
表のとおり、件数でも割合でも山は2014〜2015年式にあり、2017年式はそこから下り坂の途中です。2019年式でほぼ一桁になり、6代目へ切り替わった2020年式では1〜2%台まで下がっています。
もうひとつ興味深いのは、苦情がいつ出されたかです。上の7年式分の該当苦情1,135件を「届け出た年」で数え直すと、2017年に出されたものが534件と、全体の約47%を占めていました。2014年式の苦情も、2015年式の苦情も、多くが2017年に集中して届いています。2017年は、警察車両の件が報じられ、NHTSAが調査を格上げした年です。報道をきっかけに「自分の車もそうだ」と気づいた所有者が一斉に届け出た、と読むのが自然でしょう。
つまり、この表は「2014〜2015年式が特に危ない」という意味ではありません。古い年式ほど、2017年の時点で長く乗られていて、気づく機会が多かったという面もあります。「2017年式の苦情は相対的に少ないが、同じ問題の対象年式に入っている」と理解するのが正確です。
6年半の調査は、どう進んで、どう終わったか
一次資料をたどると、経緯は次のとおりです。
- 2016年7月1日 NHTSAが予備評価(PE16-008)を開始。対象は当初2011〜2015年式で、警察仕様(ポリス・インターセプター)を含む
- 2017年7月27日 本格的な技術調査(EA17-002)に格上げ。対象は2011〜2017年式に拡大
- 2017年10月 フォードが一般向けの無償サービス「17N03」を発表。米国で約130万台が対象(リコールではない扱い)
- 2023年1月17日 NHTSAがEA17-002を終了。リコールは求めず
PE16-008の終了資料によると、NHTSAは自前の試験施設で苦情車を含む複数の車両を調べ、警察車両の勤務中の事故も現地調査しています。最終的に6,500件を超える苦情を検討したと報じられています。
終了時の要約では、フォードの対策が正しく施工された車両では、車内のCO濃度は環境基準を下回ったとされています。そのうえで、測定値が高かった車両の原因は、警察車両では装備の後付け工事による密閉不良、一般車では後部の事故修理で密閉が元通りになっていなかったことだった、とまとめられています。
警察車両で何が起きていたか
この問題が大きく報じられたのは、警察用のエクスプローラー(ポリス・インターセプター・ユーティリティ)で、勤務中の警察官が体調不良を訴えた件が相次いだためです。
フォードのエクスプローラー担当チーフエンジニアは2017年8月、原因は車両購入後に架装業者が開けた穴だと説明しました。警光灯やサイレンの配線を通すために車体後部に穴を開け、それが塞がれていなかった、という内容です。エクスプローラーは後部の空気の流れで排気が車体後端に巻き込みやすく、そこに穴があると排気が入り込みます。セダン型のパトカーではトランクが間にあるため影響しにくい、という説明でした。
フォードは警察車両について、年式・走行距離、誰が穴を開けたかに関係なく、無償で密閉作業を行うと発表しています(警察向けの対策番号は17B25)。
一般車の「入り口」は、車体後部の継ぎ目と排水弁
一方で、穴を開けていない一般車でも排気臭の苦情はありました。フォードは当初、一般車でCOの問題は報告されていないとしていましたが、2017年10月に一般向けの無償サービス17N03を出しています。通達には「これらの車両は安全だが、安心のために排気が車内に入る可能性を減らす作業を無償で行う」と書かれています。
17N03で販売店が行う作業は、大きく3つです。
- エアコン制御の書き換え:急加速したときに、内気循環から外気導入へ自動で切り替わるようにする
- リアゲートの排水弁の交換:リアゲート下部の水抜き用の弁(2011〜2015年式は2個、2016〜2017年式は3個)を新品にして接着する
- 車体後部の密閉点検:床下のボディプラグ、リアバンパー裏の換気口(エアエクストラクター)、リアゲートのウェザーストリップを点検し、必要なら交換・シール
NHTSAの終了要約では、このうちエアコン制御の書き換えだけでも、CO濃度が大きく下がったことが試験で示されたとされています。
なお、この17N03の受付期限は延長を経て、2011〜2015年式が2019年3月31日、2016〜2017年式が2019年12月31日で終わっています。今から無償で受けられるものではありません。また、フォードは2016年末までに日本での事業から撤退しており(アフターサービスはピーシーアイ株式会社が引き継ぎ)、日本で乗られている個体にこの作業が実施されているかは、個体ごとに整備記録で確かめるしかありません。
臭いが出やすい場面は「加速」と「内気循環」
2014〜2017年式の該当苦情1,055件の本文を見ると、約47%(491件)が加速・合流・坂道など、アクセルを踏み込む場面に触れていました。エアコンや内気循環に触れたものも約25%(262件)あります。対策の中心がエアコン制御の書き換えだったこととも一致します。
もし今、次のような症状があるなら、後部の密閉かエアコン制御、または排気系そのものの不具合を疑う材料になります。
- 加速した直後、エアコン吹き出し口から排気のような臭いがする
- 内気循環にしているときの方が臭いが強い
- リアゲート付近やラゲッジルームで臭いを感じる
- 後部をぶつけて修理した履歴がある
臭いを感じたときは、窓を開けて換気し、無理に走り続けないことが基本です。そのうえで、早めに点検を受けてください。体調に異変を感じた場合は、車の問題とは切り離して医療機関に相談してください。
排気漏れ・車内臭気の診断の実績がある工場を選ぶことが、再発と二重の出費を避ける近道です。問い合わせ時に年式・型式・走行距離と、出ている症状(診断済みのトラブルコードがあればその番号)を伝えると、見積もりの精度が上がります。
整備記録に「17N03」がない中古車を見るときは
中古で5代目を検討する場合や、すでに乗っていて臭いが気になる場合は、次の順で確認すると話が早くなります。
- 整備記録・リコール履歴の確認:17N03(警察車両上がりなら17B25)の実施記録があるか。米国からの並行輸入車は、記録が残っていることがあります
- 後部の事故修理歴:NHTSAが「一般車で数値が高かった車両の多くは、後部の事故修理で密閉が戻っていなかった」と結論づけている以上、修復歴の有無は重要です
- 後付け装備:リアスポイラーへのライト追加や、配線を通した穴がないか。フォードの通達でも、スポイラーへの後付け装備は密閉を損なうとして取り外しを推奨しています
- 排気系そのもの:マフラーやパイプの穴あき・継ぎ目の漏れは、年式に関係なく車内臭の原因になります
5代目エクスプローラーには、この記事のほかにも2013年式のウォーターポンプや2016年式の変速ショックなど、年式ごとに知られた持病があります。排気臭の問題は、部品の故障というより「車体の密閉」の問題である点が、それらとは性格が違います。
直しても臭いが残る個体なら
苦情の中には、17N03を受けた後も臭いが続くと訴えるものも残っています。原因が事故修理の跡や排気系の別の箇所にある場合、作業は一度で終わらないこともあります。何度も点検に出す負担を考えると、状態によっては今の価値を一度確認しておく方が判断しやすくなります。
修理か、売却か。判断材料になるのは「修理見積もり」と「今の売却額」を並べた比較です。アメ車は業者によって査定額の開きが大きいため、1社の提示額だけで決めず、複数社の査定を取ったうえで見積もりと突き合わせてください。
Technical Notes for Professionals
ここから先は整備士・プロ向けの技術情報です DIYは自己責任
17N03実施後も臭いが出る場合のフォードの確認項目
EA17-002の付録としてNHTSAが公開したフォードの技術資料(2018年2〜3月登録の技術相談窓口向け記事)では、17N03/17B25の実施後もCO・排気臭の苦情が出た場合、次を確認するよう指示しています。
- リアゲートの排水弁が正しく接着されているか
- リアゲートのウェザーストリップの密閉状態
- エアコン制御が最新に書き換わっているか(内気循環で停車中にアクセルを全開にし、約2秒で内気→外気へ切り替わることをスキャンツールで確認)
- リフトアップして排気系に漏れにつながる損傷がないか
- 3.5L直噴ターボ(GTDI)車は、TSB 17-0063(2011〜2015年式)または17-2255(2016〜2017年式)の実施有無
- AWD車は、PTU(トランスファー)からの漏れ・ブリーザーからの臭い
警察車両(17B25)では、これに加えて排気テールパイプ延長部品の装着、リアゲートのシールを横切る後付け配線の有無、スポイラーの座り、車内の補助バッテリー(測定器に干渉する可能性)も確認項目に入っています。
17N03の床下・後部作業の要点
- 床下のマフラーハンガー付近にある長方形のボディプラグ2個は、清掃のうえマスチックパッチで覆う
- 左右リアホイールハウスのインシュレーターを外し、ボディプラグ4個と換気口(エアエクストラクター)をミラーで点検。換気口の交換にはリアバンパーカバーの脱着が必要
- リアゲート排水弁は全数交換し、接着剤で固定
5代目エクスプローラーの排気臭問題は、「欠陥なし・リコールなし」で決着した一方で、車体後部の密閉が崩れると排気が入り込むという弱点は、調査の過程ではっきり示されました。2017年式は苦情の山からは外れていますが、対策の対象年式です。臭いに気づいたら窓を開けて換気し、整備記録と後部の修理歴を手がかりに、点検を受けることをおすすめします。
出典
- NHTSA Vehicle Complaints Database — 2017 Ford Explorer(米国運輸省道路交通安全局 苦情データAPI)
- NHTSA ODI Resume — Investigation PE 16-008 Close: Ford Explorer Exhaust Odor(PDF)
- Ford Engineering Analysis EA17002: Exhaust Odor in Passenger Cab — 2015 Explorer | CarComplaints.com
- Ford — Customer Satisfaction Program 17N03 Supplement #1: Certain 2011-2017 Model Year Explorer Vehicles, Carbon Monoxide Concerns(2017年10月26日・PDF)
- Ford — Customer Satisfaction Program 17N03 Supplement #2(2019年1月9日・PDF)
- EA17-002 Ford Appendix H: Technical Service Bulletins(NHTSA公開資料・PDF)
- US ends probe into Ford SUV exhaust issues without a recall - CBS Detroit
- Improper Upfitting Caused Carbon Monoxide Exposure in P.I. Utility, Ford Says | Government Fleet
- Ford Offers Fix to Prevent Possible Explorer Carbon Monoxide Leaks - Consumer Reports
- 米フォード、日本事業撤退後のアフターサービスをピーシーアイに委託 - Car Watch