新型ラングラー(JL型)が発売されたのは2018年。フルモデルチェンジしたばかりの、いわば「一番新しい」はずの車です。ところが海外のオーナーの間では、納車直後から「ハンドルがどこか頼りない」「高速道路でずっとハンドルを小刻みに切り続けないと車線をはみ出す」という声が、モデル発売から間もない時期に集中して上がりました。
米国のカーメディアTFLcarが取材した、あるJLオーナーの事例が象徴的です。2018年6月に新車で購入した直後から、ステアリングに大きな遊びを感じ、車がまっすぐ走らない傾向に気づいたといいます。ディーラーに持ち込んだところ、最初の点検では「異常なし」。ジープのカスタマーケアに連絡してから再度点検してもらい、サービス担当者はようやく症状を認めたものの、結局は「問題なし」という結論に落ち着いたと報じられています。オーナー本人は「ボルトが実際に緩んでいる」と主張していました。新車のディーラー点検で異常を検知しにくい、という点がこの症状の厄介さを表しています。
デスウォブルとは別物、という前提から始めます
ラングラーJK型(2007〜2018年)以降、「デスウォブル(Death Wobble)」という言葉を目にした方も多いと思います。時速50〜60マイル前後で、路面の段差をきっかけにフロント全体が激しく左右に振れる、非常に危険な自励振動です。当サイトでもJK型のデスウォブルは別記事で扱っていますが、今回のJL型「ステアリングワンダー」は、これとは別の現象として区別して考える必要があります。
| デスウォブル(Death Wobble) | ステアリングワンダー(Steering Wander) | |
|---|---|---|
| 発生の仕方 | 段差をきっかけに突発的に発生 | 常時・持続的に続く |
| 症状の強さ | ハンドルを保持できないほど激しく振動 | 激しい振動はなく、車が左右にじわじわ流れる |
| 運転への影響 | 減速するまで収まらない | 常にハンドルで微修正し続けないと車線を保てない |
| 疑われる箇所 | トラックバーのガタ・ブッシュ摩耗(リジッドアクスル特有の共振) | ステアリングギア・電動パワーステアリング(EPS)まわりの制御・オンセンター感 |
デスウォブルが「事故になりかねない突発的な暴れ」だとすれば、ステアリングワンダーは「常にハンドルを支配され続ける疲労」です。危険度としては前者の方が緊急性が高い一方、ワンダーは毎日の運転で延々とストレスを与え続けるという意味で、質の異なる持病だといえます。
苦情データが示す規模
米国の消費者苦情データベースを集計しているcarcomplaints.comによると、2018年式ラングラーのステアリング関連苦情は1,081件にのぼり、平均走行距離は約7,022マイル(約1.1万km)時点での申告です。この距離の短さは重要な意味を持っています。経年劣化で徐々に悪化する類のトラブルではなく、ごく初期の段階から症状が出ているケースが多いことを示しているからです。同ページでは、時速51〜58マイル帯での激しい振動(デスウォブル)が最も頻繁に報告される症状として挙げられている一方、低速でのハンドルの揺れ、寒冷時にハンドルが固くなる症状、パワーステアリングの喪失、そして走行中に車が流れる「wander」も、別の症状カテゴリーとして記録されています。
この問題は個別のオーナーの声にとどまらず、米国の運輸当局も動きました。米国家道路交通安全局(NHTSA)は2019年9月、2018〜2019年式ラングラー約27万台を対象に予備調査(Preliminary Evaluation、番号PE19-012)を開始しています。調査の対象となった苦情は大きく二つに分かれ、一つは「ステアリングのシミー/ふらつき、断続的なロック、そして緩み・蛇行(looseness/wandering)」に関するもので3,566件、もう一つはフレームの溶接不良(多孔質溶接・スラグの過多・溶接不足や過剰な溶け込みなど)に関するもので152件が挙げられています。この調査時点では、これらの症状に起因する事故・火災・負傷・死亡の報告はないとされていますが、それだけの規模の苦情が短期間に集中したこと自体が、この症状が個体差の範囲を超えていたことを物語っています。
自分の車で確認できること
- 高速道路や広い直線路で、ハンドルから軽く手を離せる状態で車がまっすぐ進み続けるか(強制ではなく、あくまで挙動確認として)
- 段差を踏んだ後ではなく、平坦な路面を一定速度で走っているときに、常にハンドルを左右に修正し続けている感覚がないか
- ハンドルセンター付近であそび(遊び)が大きく感じられないか。切り始めの手応えが薄く、少し切っても反応が鈍いか
- 気温が低い朝方にハンドルが特に重く・固く感じられないか
- タイヤの空気圧・偏摩耗、アライメント数値に異常がないか(ワンダーの原因は足回り側にもあり得るため、まずここを除外する必要があります)
これらは「疑いを持てるかどうか」の目安であり、実際の原因箇所の特定にはリフトアップでの点検やアライメントテスターでの計測が必要です。
ステアリング・足回りの診断の実績がある工場を選ぶことが、再発と二重の出費を避ける近道です。問い合わせ時に年式・型式・走行距離と、出ている症状(診断済みのトラブルコードがあればその番号)を伝えると、見積もりの精度が上がります。
対策として出ているTSB「ステアリングフィール改善」
海外で報告されているこの症状に対して、メーカー側も無反応だったわけではありません。carcomplaints.comが公開している2018年式ラングラーのTSB(技術サービス速報)一覧には、TSB番号「08-074-20」として「Improved Steering Feel(改善されたステアリングフィール)」という項目が記載されており、内容はステアリングギアの交換と、電動油圧パワーステアリング(EHPS)のソフトウェア更新(EPSモジュールの再プログラム)とされています。つまりメーカー側も、機械的な部品(ギア)の交換だけでなく、電動アシストの制御ソフト側にも原因があり得ると認識していたことになります。
これは重要なポイントです。ステアリングワンダーは「ボルトを締め直せば直る」という単純な話とは限らず、部品交換と制御ソフトの両面から見立てる必要がある症状だということです。ディーラーの初回点検で「異常なし」と判定されやすいのも、目視や単純な揺すり点検だけでは電動アシスト側の制御特性の問題を拾いきれないためだと考えられます。
保証期間内であればTSBに基づく無償修理の対象になり得ますが、日本国内に持ち込まれた車両にはメーカー保証がそのまま適用されるとは限りません。年式や走行距離次第では、TSB内容を踏まえたうえで部品代・工賃を工場に確認することになります。それでも改善が見られない、あるいは他の不具合も重なって修理費がかさんでいくようなら、無理に直し続けるより車両の価値を確認しておくのも一つの選択です。
修理か、売却か。判断材料になるのは「修理見積もり」と「今の売却額」を並べた比較です。アメ車は業者によって査定額の開きが大きいため、1社の提示額だけで決めず、複数社の査定を取ったうえで見積もりと突き合わせてください。
Technical Notes for Professionals
ここから先は整備士・プロ向けの技術情報です DIYは自己責任
NHTSA予備調査PE19-012の切り分け
NHTSAの調査は、症状を二系統に分けて扱っている点に注意が必要です。
- ステアリング系統(3,566件):シミー/ふらつき、断続的なロックアップ、そして緩み・蛇行(looseness/wandering)——デスウォブルとワンダーの両方が、この一つのカテゴリーの中に混在して集計されています。切り分けには、症状が「突発的か・常時か」「特定速度域だけか・常にか」の聞き取りが不可欠です。
- フレーム溶接系統(152件):多孔質溶接、スラグの過多、溶接不足または過剰な溶け込み、オーバーウェルドなど、フレーム側の溶接品質に関する苦情。トラックバーブラケットの溶接不良が過去に別途リコール対象となった経緯もあり、フロント周りのガタつきを診断する際は、部品の摩耗だけでなくブラケット溶接部の状態も確認範囲に含めるべきとされています。
診断の優先順位
- タイヤ空気圧・偏摩耗・ホイールバランスの確認(もっとも基本的で見落とされやすい原因)
- アライメント測定(トー・キャンバー・キャスターの規定値からの逸脱)
- ステアリングギアボックスのオンセンター付近のガタ・応答の鈍さの確認
- タイロッドエンド・ドラッグリンクエンドのガタ点検
- TSB 08-074-20に基づくEPS(電動パワーステアリング)モジュールの故障コード読み取り・再プログラムの要否確認
- 上記で原因が特定できない場合、トラックバーブラケット周辺の溶接部の目視・打診点検
デスウォブルの診断(アクスル位置・トラックバーのガタを中心とする)とは着眼点が異なるため、同じ「フロントがふらつく」という訴えでも、まず症状が突発的か持続的かを聞き取ってから点検範囲を絞り込むことが、無駄な部品交換を避ける近道になります。
※本記事の対象車両(2018年式)については、当サイトでの部品調達代行はご案内しておりません。年式・仕様に応じた適合確認を含め、お近くの整備工場・正規ディーラーにご相談ください。
まとめ
新型ラングラーJLの「ステアリングワンダー」は、デスウォブルのような突発的で激しい振動ではなく、常にハンドルを微修正し続けなければならない持続的な直進安定性の悪さです。carcomplaints.comには平均走行距離わずか7,022マイルでの苦情が1,081件集まり、NHTSAは2018〜2019年式約27万台を対象に予備調査(PE19-012)を実施、ステアリング系の苦情だけで3,566件が報告されています。メーカーはTSB「08-074-20」でステアリングギア交換とEPSソフトウェアの再プログラムを対策として示していますが、ディーラーの簡易点検では「異常なし」と判定されて見過ごされやすいのが実情です。「気のせいかもしれない」と流さず、症状が突発的か持続的かを整理したうえで、足回りとステアリング制御の両面を見られる工場に相談することが、遠回りしない近道になります。
出典
- 1081 Complaints: 2018 Jeep Wrangler Steering Problems - CarComplaints.com
- 2018 Jeep Wrangler TSBs - Technical Service Bulletins (CarComplaints.com)
- NHTSA Opens Investigation Into 2018 - 2019 Jeep Wrangler Steering Problems - TFLcar
- Report: 2018 Jeep Wrangler JL Suffers From Steering Issues, Owners Claim - TFLcar
- NHTSA Investigating 2018-2019 Wranglers For Steering and Weld Issues - OffRoadXtreme